「土偶を読む」を読みました。これからは、サトイモで蘊蓄を語らさせていただきます。

 


「ついに土偶の正体を解明しました」で始まる竹倉史人さんの「土偶を読む 130年間解かれなかった縄文神話の謎」(晶文社)を読みました。
土偶の見方が今までとは全く違っていて、一言で言えば「なるほど。おもしろいなぁ。」でした。

玄関の遮光器土偶

「土偶を読む」を読み始める前に、我が家の玄関に遮光器土偶を出しました。

土偶の中でも遮光器土偶はお気に入りです。何だか宇宙人のようです。縄文人が宇宙に思いを馳せ、ひょっとしたら宇宙人が地上に降り立ち、それを見た縄文人が土偶を作ったのかと思うと、わくわくします。
では、この本の中で遮光器土偶をどのように解釈しているのでしょうか。
読了後、遮光器土偶をやはり宇宙人っぽいと思って見るのか、はたまた、全く別物として見るようになるのか、楽しみです。

「土偶を読む」を私なりに次のように理解しました

土偶の解釈に定説はない

土偶には二つの大きな謎があります。一つは「何をかたどっているのか」というモチーフの問題です。もう一つは「土偶はどのように使用されたのか」とう用途の問題です。
いずれの謎に対しても研究者の間で統一された見解は形成されていません。
通説として、「土偶は女性をかたどったもので、自然の豊かな恵みを祈って作られた」とされています。
改めて土偶を並べて眺めてみると、はたして女性の姿に見えるでしょうか?女性はおろか、人間の形態に類似さえしていません。「土偶は人体をデフォルメしている」という俗説そのものに違和感を覚えます。

土偶は言われるような安産祈願、狩猟祈願、病気・怪我治療祈願に使われたのではありません

土偶文化は、縄文中期から後期に最も多く、弥生期に入ると激減し、弥生後期には完全に消滅してしまいます。
土偶はどういった用途で使われ、いかなる理由で増減し、消滅したのでしょう。
東京国立博物館の展覧会図録で挙げている3つの用途は、人口と土偶出土数のデータから否定されます。
1.再生・多産・安産祈願説:人口増減と土偶増減が相関しません。
2.狩猟成功祈願説:土偶が急増するのは食用植物の資源利用が本格化していく時期です。
3.病気・ケガ治療説:1.と同じく、人口増減と土偶増減が一致しません。

土偶は森林性炭水化物を提供してくれる植物に対する祭祀に使われたのではないか

ここで著者は土偶の増減は「炭水化物の獲得方法の変化」ではないか、と考えます。
縄文中期、炭水化物を多く含むが有害物質も多く含むトチノミのあく抜き技術を確立することで劇的に炭水化物を確保することができるようになりました。人口増加の最大の要因はトチノミ利用の開始と考えています。植物利用に伴う儀礼が行われていたことは間違いなく、その植物霊祭祀に土偶が用いられたのではないでしょうか。
このように、トチノミなどの森林性炭水化物の利用とセットで土偶が興隆しました。弥生期には大陸由来の稲作が優勢となり、土偶を用いない別のスタイルの穀物祭祀に移行し、それに伴い土偶が作られなくなったと考えています。

土偶のプロファイリング

植物霊祭祀に土偶が使われたのなら、植物霊のモチーフが土偶に表れているはずです。
そのモチーフとなる植物を特定したら、土偶の出土分布とその植物の生育分布が合致するか確認します。
その結果、土偶ごとに次のような植物との関係を見出しました。
ハート形土偶はオニグルミ。
ハート形土偶 オニグルミの殻

合掌土偶・中空土偶とクリ。
縄文のビーナスが属するカモメライン土偶とトチノミ
トチノミ


結髪土偶と稲わら。
遮光器土偶と里芋。
 
文字で読むとこれらの植物をモチーフにしたとは理解しにくいですが、写真で見るとなるほど、特徴がよく似ている、と感じます。
例えば、宇宙人のようだと思っていた遮光器土偶も、サトイモの塊茎をそう思って見てみると、よく似ているように感じます。

更に、植物をモチーフにしただけでなく貝類をモチーフにした土偶も挙げています。
椎塚土偶はハマグリ、みみずく土偶はイタボガキ、星形土偶はオオツタノハなどです。


こうして土偶のモチーフになったと想定する植物や貝類を並べてその特徴を比較する本書を読むと、「土偶は女性をかたどったもので、自然の豊かな恵みを祈って作られた」という通説が薄っぺらいように感じます。

著者が「ついに土偶の正体を解明しました」と言いたくなる気持ちが分かります

本を読み終わると、著書が「ついに土偶の正体を解明しました」と言いたくなる、書きたくなる気持ちがよくわかりました。
時代ごとの土偶増減も説明できています。
土偶ごとにモチーフとなった植物・貝類を特定し、土偶分布と生息分布も確認しています。
こうした説が出た以上、これに異を唱えるのなら、この説以上に時代ごとの増減やどういったモチーフ、用途だったかを説明できる説を提出しなければなりません。
いやぁ、面白いですね。

本を読み終わって、玄関に行くと遮光器土偶がいます

玄関の遮光器土偶、なんだか背中を丸め、小さくなっているようです。
今までような宇宙の深淵とつながっている雰囲気はなんだか感じられません。
その一方、裏の畑で大きく葉を茂らせているサトイモとつながっている土偶だと思うと、なんだか、親しみが湧いてきました。
宇宙とつながっていなくても、サトイモがモチーフでも、土偶が好きですし、遮光器土偶も好きなことに変わりありません。
今年の里芋の収穫が楽しみになってきました。
裏庭のサトイモの葉

さぁ、サトイモ料理が出てきたらひとくさり蘊蓄を語るようにしましょう。

お詫び:本書には随所に図表、写真が掲載されています。それらの資料を用いずに言葉だけで説明することは困難と言わざるを得ません。本ブログにはネットからお借りした写真をいくつか載せましたが、本書の図表、写真の説得力には遠く及びません。ぜひ、一度、本書を手にとってみてください。

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