「三体0 球状閃電」と世界平和

 図書館の新刊書棚で「三体0 球状閃電」が目に飛び込んできました。
 三体!
帯には「《三体》三部作はここから始まった!」
「《三体》前日譚にして原点の本格SF巨篇!」とあります。
これは見逃すわけにはいきません。
早速手に取り読んでみました。





劉慈欣の三体

「三体」は中国の劉慈欣さんのSF作品です。
2015年、ヒューゴー賞を受賞しました。
アジア人作家の作品では初めての受賞です。
日本のSF作家も受賞していない賞です。
「三体」、「三体Ⅱ暗黒森林」、「三体Ⅲ死神永生」とあり、三体3部作と呼ばれています。
更に三体のファン・宝樹が書いた外伝(スピンオフ)「三体X」があります。
「X」は10ではなく、不確定という意味だそうです。
外伝(スピンオフ)でも、本家の劉慈欣さんがこの作品の出版を許可した作品です。
あの三体の外伝 三体X を読みました (taichanretiredlife.blogspot.com)
いずれも力作でその奇想天外ぶりを興味深く読むことができました。

今回の「三体0 球状閃電」は本家の劉慈欣さんの作品です
でも、「三体」の前日譚?


「三体0 球状閃電」は劉慈欣さん本人の作品です。
本作品の「三体0 球状閃電」は2004年6月に中国のSF誌「科幻世界」に掲載されました。
2006年5月号から同誌に掲載が始まったのが「三体」です。
時系列的に「三体」の前日譚なのでしょう。
あの「三体」の前日譚と期待して、一気に読みました。
でも、ん?
どこにも「三体文明」がでてきません。
「三体文明」に関わるエピソードすらありません。
どこが「三体」の前日譚?

訳者あとがきにその疑問に答える説明がありました

(1)直接、「三体文明」とつながる前日譚ではない。
(2)登場人物として天才物理学者「丁儀」は共通。
(3)原書では「三体0 球状閃電」のエピソードが「三体」に盛り込まれているところがあるが、英訳・日本語訳の出版が前後逆になったのでそのエピソードは省かれた。

なるほど。
本の帯の文句に釣られた感は否めません。
でも、「劉慈欣」「三体」の文字がなければ手に取らなかったもしれません。
読んで満足だったので、釣られて尚よし、としましょう。

「三体3部作」は地球外文明、「三体0 球状閃電」は地球上での戦争

「三体3部作」は地球から遠く離れた三体文明、更には暗黒森林に潜む道の文明との戦いでした。
遥かなる宇宙を舞台にするため、「三体3部作」を楽しく読むには科学史、相対性理論、量子力学、超ひも理論の上っ面をなでることができればいいと思いました。
一方、「三体0 球状閃電」は中国とその周りの国との戦いがベースにあります。
今までの兵器とは全く違う概念の兵器を開発することで話が進んで行きいます。
雷に伴う自然現象と思われていた「球電」が、実はそれまでの物理学では想像もしていなかった物質、現象であることが分かり、それを使った新兵器を開発してきます。
「三体0 球状閃電」は、粒子性と波動、シュレディンガーの猫のこれも上っ面でいいので分かっていれば読みやすいでしょう。
最後の方はシュレディンガーの猫でまくり、というか、そうしないと完結しなかったでしょう。

「三体0 球状閃電」では新兵器で地球上での戦いは終わりを告げました

ネタばれです。
中国が開発した新兵器で、他国は中国への攻撃を止め、停戦・終戦となりました。
新兵器で中国が他国に勝利したわけではありません。
新兵器は中国など一国だけでなく地球文明を農耕の時代に巻き戻す効果があります。
そんな兵器が登場したので、戦争を仕掛けると自国まで近代文明を失います。
けっして大量殺りく兵器ではありませんが、その兵器を目の前に、どの国も攻撃ができなくなりました。
殺伐とした戦闘描写の後で訪れる”平和”にホッとしました。


現実の世界を見ると武力で領土を奪う戦争が行われています。
戦争を仕掛けた国は国連の常任理事国・核保有国です。
国連の常任理事国が、そして核を保有する国が、他国を圧倒的な武力で、核を持たない国を核で恫喝しています。
戦争は何も生み出さず、他国も自国も不幸になります。
戦争は本の中だけで十分です。
世界に平和が訪れることを願って、読み終えました。



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