堂場瞬一さんの「オリンピックを殺す日」(文芸春秋社)

 堂場瞬一さんの「オリンピックを殺す日」(文芸春秋社)を読みました。
何気なく読み始めた本ですが、オリンピック、更にはスポーツイベントについて今までとは違った視線を持つようになりました。








「オリンピックを殺す日」

「五輪は集金・分配システムに変化し、意義を失った」に共感する人たちがオリンピックとは全く違う考えのスポーツ大会「ザ・ゲーム」を開催していきます。
「ザ・ゲーム」は次のようにして開催されます。
(1)スポンサーを排除する。
(2)選手は参加費(1万ドル)、旅費・滞在費を払って参加する。
(3)テレビの中継はしない。
(4)観客をスタジアムに入れない。
(5)マスコミの公式取材はなし。選手が自分の考えで取材を受けることを妨げない。
(6)会場はギリシャ・アテネ。近代オリンピック発祥の地に固定。
(7)引退した選手は運営ボランティアとして参加する。
一言で言えば「選手による選手の大会」です。

ザ・ゲームの目的

「選手には、競技だけに集中して欲しいんです。スポンサーを喜ばせたいとか、観ている人に勇気を与えたいとか、そんなことも考えて欲しくない。近代スポーツの原点に立ち返るのが、ザ・ゲームの目的です。」(p353)

オリンピックにはたくさんのお金が動きます

東京オリンピックの贈収賄の醜さを言うのも嫌な気分です。
オリンピック誘致の目的はなんだったんでしょう?
会場の建設費には莫大な費用が掛かります。
毎回、会場を変えるということは、新たな会場つくりの費用を開催都市が負担するということです。
1964年の東京オリンピックの時は首都高など社会インフラを整え、その後の経済発展のきっかけになりました。
今回も、そんな古い経済刺激、日本経済の復興を目論んでいたのではないかと感じました。
東京オリンピックの当初の開催費用の見積もりに対し、実際はその何倍ものお金がかかりました。
お金の金額そのものも驚きますが、当初の見積もりからの違いにも驚きます。
とにかく、始めてしまえれば、いくらかかってもいい、と言っているようです。

また、開催時期、時間にもお金が関係します。
アメリカのテレビ放送がスポンサーにならないとオリンピックの採算は取れません。
アメリカの大きなスポーツがない8月に、そしてアメリカ市民が視聴しやすい時間に試合が組まれます。
そのため、マラソンを真夏の8月に行うなんてことが起こります。
選手ファーストでは決してありません。

メダルをとることができなかった選手は「応援してくれた皆さんに申し訳ない」と泣き崩れます。
メダルをとれば選手だけでなく周りもそれから先、ずーっとメダリストとして有形無形のメリットがあるからだ、とうがった見方をしてしまいます。

こうして振り返るとオリンピックは選手ファーストとは言い難く、お金ファーストです。


大坂なおみ〝消息不明〟で全豪オープンが大混乱 海外メディア「出場は絶望的」

「オリンピックを殺す日」を読んだ数日後、大阪なおみさんが消息不明で、全豪オープンが混乱しているとのニュースに接しました。
大坂なおみ〝消息不明〟で全豪オープンが大混乱 海外メディア「出場は絶望的」 - モデルプレス (mdpr.jp)
大阪なおみさんは今までも、取材や会場でのヤジで感情を抑えることができないことがありました。
「オリンピックを殺す日」のザ・ゲームのように無観客、取材なしであれば大阪なおみ選手だけでなく選手は心置きなくプレーに集中できるんでしょうね。

荒唐無稽の話のように思えたザ・ゲームも、これからのスポーツ大会を考える一石ですね。


今年行われる野球の世界大会ともいえるワールドクラシックベースボール。
先日、栗山監督が代表選手の一部を発表しました。
選出された選手が一様に「日本を背負って戦う」と決意を述べていました。
そんなことより自分のために、自分が楽しむために参加して欲しいと思います。


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