板垣退助の生涯を描いた「自由は死せず」(門井 慶喜著、双葉社)を読みました
自由民権運動を主導した庶民派の政治家・板垣退助の生涯を描いた「自由は死せず」(門井 慶喜著、双葉社)を読みました。
自由は死せず - 門井慶喜 (単行本) | 双葉社 公式 (futabasha.co.jp)
自由は死せず - 門井慶喜 (単行本) | 双葉社 公式 (futabasha.co.jp)
幕末から明治維新、そして自由民権運動を主導した土佐の偉人の物語です。
坂本龍馬は明治維新を見る前に凶刃に倒れました。坂本龍馬の生涯だけでは、ご一新、そしてその後の日本の激動を語ることができません。
幕末から明治維新、そして近代民主主義国としての日本の憲法、国会、政党の成立までの流れを一人の武人、政治家の人生を通してたどることができる力作でした。
たっぷり楽しみました。
板垣退助
板垣退助は1837年に土佐藩士(上士)として生まれました。
幕末には武力討幕を唱え薩摩との密約を結び、戊辰戦争では土佐藩陸軍総督となり特に甲州勝沼の戦い、会津攻略戦では軍功著しく、新政府では参議となったものの下野し、土佐に帰り自由民権運動をおこします。
自由民権運動で土佐の田舎から日本を変える意気込みを「自由は土佐の山間より」の言葉がよく表しています。
自由民権運動の先駆者として日本全国を遊説中の岐阜で暴漢に襲われた時の「板垣死すとも自由は死せず」の言葉が有名です。
近代国家としての憲法、国会、政党の成立に大きな影響を与えました。
これだけの実績があるにもかかわらず、幕末と言えば坂本龍馬の名前が上がります。
今回、「自由を死せず」を読むことで、郷土の偉人・板垣退助の生涯を知ることができました。
今回、「自由を死せず」を読むことで、郷土の偉人・板垣退助の生涯を知ることができました。
この本を読んで気付いたこと、心に残ったことを綴ってみます。
幕末の土佐藩の政争に改めておののきました
藩主の山内容堂公と改革派として藩制を進める吉田東洋、土佐勤皇党の武市半平太らが登場する土佐藩の政争はなかなか血なまぐさいものです。
もう数10年も前、司馬遼太郎の「龍馬が行く」で土佐藩の政争については読みました。
ぼんやりと理解しているつもりでした。
今回、この「自由は死せず」では、土佐藩の政争、政情が詳しく述べれらていて、改めてこの土佐の地で血なまぐさい政争があったことにおののいた次第です。
奥羽越列藩同盟
新政府を樹立した薩摩藩・長州藩・土佐藩らを中核とした新政府軍と、旧幕府軍・奥羽越列藩同盟・蝦夷共和国(幕府陸軍・幕府海軍)が戦った日本の近代史最大の内戦・戊辰戦争。私の勉強不足で、白虎隊の悲劇はあったものの新政府軍が早々に容易に勝利を得たと思っていました。
この本だけでなく、最近、いろいろなメディアを通して「奥羽越列藩同盟」の名前に触れ、激戦の様子を知りました。
時代の大きな流れが歴史となります。
勝てば官軍で勝ったものが歴史を作ります。
勝った官軍側の薩長土肥が中心になって新政府を運営していきます。
その裏側に賊軍となった旧藩の人々が流した多くの血、葛藤があったことを改めて思い至りました。
自由は土佐の山間より
1889年に明治憲法 及び衆議院議員選挙法が公布され、翌年の1990年に第一回衆議院選挙が行われました。
この選挙に合わせ、政党もできました。
この憲法、国会、政党の成立に土佐の自由民権運動が大きくかかわりました。
この土佐のおんちゃんたちが「自由は土佐の山間より」と熱く語り合いました。
土佐の自由民権運動家が全国に遊説し、その熱気が全国に広がり、政府を突き動かしました。
ほんのこの前まで江戸幕府のもとの封建制度だった時代を打ち壊し、さらに自由民主主義の胎動を促したのです。
日本を変えよう、良くしようとする動きが全国で盛り上がっていたことを思い出すとともに、その動きがこの土佐から起こっていたことに感動です!
猟官運動をしない
板垣退助の生きざまもカッコいい
猟官運動をしたのは、生涯一度きり。(p60)
私は弘田弘毅の「自らは計らず」(「落日燃ゆ」城山三郎著)の生き方が好きで、自分ではその生き方を貫いてきたつもりです。
土佐の先輩の偉人も「自らは計らず」の生き方を貫こうとしていたことに、やっぱり、土佐人は意地っ張りなんだろうなぁ、と納得しました。
殿様がわしらに何をしてくれた?
戊辰戦争で会津の峠に差し掛かった時、会津城の方から逃げてくる農民、町民、僧侶に出くわしました。
退助が「殿様を見捨てるのか?」と問うと、
「殿様が、わしらに何をしてくれた?
その家臣どもが何をしてくれた?
この300年間、ただ武士に生まれたってだけで大威張りで商売の邪魔をしたでねが。
腹いっぱい白米の飯を食ったんでねが。
それが京でしくじりをして、のっぴきならない立場になったらやれお国の危機じゃ、戦じゃと。
誰が素直に金を出すか、米を出すか。
虫がいいにもほどがある。
お前らが勝っても、また、武士の代わりに武士が世を治める。
それだけの話だべ」と言い捨てて、行ってしまいます。(p294)
この経験が退助に「武士の世を終わらせる」決意をさせます。
ご一新後、身分、収入つまり既得権益を取り上げられた武士が各地で蜂起しても、「つくづくと、武士の世がいやになった。武士が消えてなくなれば、日本は真に一つになる」(p361)と退助はともに立とうとはしませんでした。
退助自身も武士の身分がなくなります。
それでも、しなければならないことがある、と新しい時代に向けて指をさし、自らが先頭に立つ。
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