トヨタのスポーツカーづくりを描いた「どんがら」を読みました

 

トヨタの一人のチーフエンジニアがスポーツカー「86」「スープラ」を作り上げていく物語「どんがら」を読みました。

実際の担当者から取材して、実名で小説に仕立てています。

やっぱりモノづくりはいいな、と思った本でした。





「どんがら」清武英利 講談社

会社のために働くな。
「絶対に売れない、儲からない」と言われた、時代に逆らう最後のスポーツカーを、命がけで造り上げた男がいる。
日本最大の自動車会社・トヨタでもがき、苦しみ、サラリーマンでありながらも夢を追い続けるエンジニアたちの、心ふるわすノンフィクション。
スポーツカー「86」「スープラ」の復活を手掛けた元トヨタチーフエンジニア・多田哲哉を主人公に、技術者やその家族の苦闘と人生の喜びを描いた「週刊現代」の人気連載「ゼットの人びと」を大幅に加筆修正。
これまで秘密のベールに包まれてきた、トヨタエンジニアの牙城「技術本館」内部で繰り広げられる人間模様、スポーツカー開発の詳細なプロセス、そしてトヨタを世界企業に押し上げた歴代チーフエンジニアたちの「仕事術」にも、綿密な取材で肉薄する。スポーツカーファンのみならず、人生と仕事に悩むすべての人へ贈る物語。

以上 講談社BOOK倶楽部から

なお、「どんがら」とは鉄板むき出しで中身も色もついていないボディのことを呼ぶ業界用語です。これにエンジンや座席を付ければ完成します。どんがらの出来が車の性能を左右します。(p221)


モノづくり、クルマ、スポーツカーに興味がある方は是非、手に取って読んでみてください。
モノづくりって大変だけど、いいな、と思える本です。

ビスマルクの言葉に「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」があります。
以下は私の経験をもとにした読後の感想です。


モノづくりは創意工夫の塊だ

小学校の授業で「2次産業、つまりものづくりは毎日同じものを作る単純な仕事です。これからの時代は3次産業に向かわなければなりません。」と教わった記憶があります。
素直で単純な私はすっかりモノづくりは単純作業と思っていました。
30歳を過ぎてそのモノづくりの仕事に携わりました。
そうすると日々、創意工夫の連続でした。
単純作業の繰り返しどころではありませんでした。


神様と女を除いてこの世界でモノを作れるのは技術者しかいない

「文明は生活を楽にし、文化は生活を豊かにする」
もう手元にはありませんが、ティーネマンの著書にあった言葉だと覚えています。
もう40年も前の話です。
洗濯機や掃除機などの工業製品は生活を楽にする。
生活を豊かにするのは絵画であり音楽などである。
なるほど、そうなのかと納得したものでした。
今もそうでしょうか。
音楽を持ち出すことができるようにしたウォークマン。
スポーツカーとは本質的に日常の役に立たないものです。(どんがら p326)
日常に生活になくてはならないスマホ。
これらはいずれも工業製品です。
生活を楽にするためにあるものではなく、豊かにするものです。

そしてこの生活を豊かにする工業製品は「世の中にこんなものがあればきっと喜んでくれる」という一人のエンジニアの思いからスタートしています。
「神様と女を除いてこの世界でモノを作れるのは技術者しかいない。」(どんがら p93)
音楽や絵画をはまた別のアプローチで人生を彩る手助けに工業製品、モノづくりは欠かせません。

一つとして同じものはない

「同じものを作り続ける単純作業」は実はとても難しいことです。
なぜなら、同じものはこの世の中に一つもないからです。
それでも同じ機能・性能を発揮する製品を安定して作らなければなりません。
そのためには機能・性能に関連する製品の特性は何かを把握しなければなりません。
その特性をどの範囲に収めれば昨日・性能が求められる範囲に入るか。
もちろん原材料だって「同じもの」はありません。
「同じものを作り続ける創意工夫」
モノづくりの原点であり、他社と差別化する武器であり、哲学・良心だと思っています。


少数精鋭とは精鋭を少数集めることではない
少数だから精鋭になっていく(どんがら p303)

トヨタくらい優秀者エンジニアをたくさん抱えていればスポーツカーづくりなんて簡単だろう、と思って読むと実は一人のエンジニアの熱い思いがなければ実現しなかったことが分かります。
会社が作るのではありません。
もちろん会社という組織があっての話ですが、
エンジニアが、それも一人のエンジニアの熱い思いがなければ熱い製品は世に出ません。
これはスポーツカーにとどまらず世の中の工業製品すべてに当てはまる真実だと思います。

会社の都合に合わせて丸く収めようと思ったり、安易にコストを削ろうとしていると
「俺(上司)や会社を満足させようとしているんだったら、それは大間違いだぞ。
お客さんがどう考えるかを考えろ」(どんがら p342)

部品を共通で使えば使うほどコストは安くつく。今回の(BMWとの)共同開発でも共通部品を多く使うのは当然だろう。その前提でBMWと協議を始めると、BMWの担当者は(主人公の)目を見ながら言い放った。
「何を言っているんだ。そんなことでお前の作りたい車ができるのか?すごくお金がかかるところ(エンジン、シャーシ)は共通にするさ。でも車の個性に関るようなところは自分たちが欲しいものにした方がいいじゃないか」(どんがら p293)


いいものを作ろうとする気持ちと上司や会社の意向への配慮のせめぎあい。
組織人、サラリーマンだったら当然の葛藤です。
そのせめぎあいを背中を押し、はっと気づかしてくれる仲間。
その仲間は会社の枠を超えていても同じモノを作り上げようとする仲間かもしれません。
更に上司かもしれません。
こうした仲間、上司に恵まれるのも本人の熱意があるからこそだと思います。
モノづくりの本なのにときどき、ウルっと来るのはそうした仲間、上司の思いやりがあるからだと思います。

やっぱりモノづくりはいいなぁ、と思った本でした。





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