桜の切り株と人生の扉

 
今年も桜の開花予想が聞かれるようになりました。
でも、毎年楽しませてくれた我が家の桜はもう咲くことはありません。







我が家の桜で花見

30数年前にこの地この家に引っ越してきました。
裏庭に小さな桜の木がありました。
木は年々大きくなり屋根の上まで伸び、たくさんの花を咲かせるようになりました。
我が家の裏庭の向こうには農地が広がっていて住宅はなく人目を気にせず花見ができます。


桜の木の下にテーブルと椅子を置き、開花の日が近づくとそわそわ。
一輪でも咲くと早速花見です。
冷蔵庫から適当な肴を見繕ってテーブルに運び、取り敢えずビール。
そして大好きな純米酒。





見上げると幹から伸びる枝の先に数輪の花びら。








陽が傾き徐々に暗くなる薄暮の中で桜を見上げながらお酒を飲む。
至福の時です。
暗くなり手元が見えなくなるころにはほろ酔いになり、その日の花見は終わりです。
数輪だった花が徐々に増え、3分咲き、5分咲き、7分咲き、満開。はらはらと散りはじめ、



次第に足元は花弁の絨毯になり、枝には小さな新緑の芽が出始めます。
毎日、花見です。
両親が健在だったころは子供たちも一緒に花見をすることもありました。
家人も咲き始めた頃は出てきて庭の野草の天ぷらを作ったりするのですが毎日は付き合いきれないようで、その後は一人で花見を楽しんでいました。
桜を見ながら静かにお酒を飲むのはいいもんです。

桜と人生の扉

気が向くとスマホで音楽を聴くこともありました。
一人花見に合う曲は「春がまた来るたび ひとつ年を重ね」で始まる竹内まりあさんの「人生の扉」でした。

春がまた来るたび ひとつ年を重ね
目に映る景色も 少しずつ変わるよ
陽気にはしゃいでた 幼い日は遠く
気がつけば五十路を 越えた私がいる
信じられない速さで 時は過ぎ去ると 知ってしまったら
どんな小さなことも 覚えていたいと 心が言ったよ

I say it’s fun to be 20
You say it’s great to be 30
And they say it’s lovely to be 40
But I feel it’s nice to be 50

満開の桜や 色づく山の紅葉を
この先いったい何度 見ることになるだろう
ひとつひとつ 人生の扉を開けては 感じるその重さ
ひとりひとり 愛する人たちのために 生きてゆきたいよ

I say it’s fine to be 60
You say it’s alright to be 70
And they say still good to be 80
But I’ll maybe live over 90

君のデニムの青が 褪せてゆくほど 味わい増すように
長い旅路の果てに 輝く何かが 誰にでもあるさ

I say it’s sad to get weak
You say it’s hard to get older
And they say that life has no meaning
But I still believe it’s worth living
But I still believe it’s worth living

年齢を重ねてきた世代には「そうそう」と思い当たることがたくさんある歌詞です。
前奏に続き流れてくる歌詞に「そうだ。あの頃は若かったなぁ。無邪気にはしゃいでいたか。全くその通りだった。若い頃は周りも見えず一所懸命だったけど、思えば一つ一つ人生の扉を開け次々と新しい景色を見てきたんだなぁ。そして今、自分は五十路どころかもう七十が近づいている。本当に信じられない。」と純米酒をぐびりと桜を見ながら人生を振り返っていました。
ここ数年はその桜も花をつけない枝が目立つようになっていました。
「桜も自分も年を重ねてきた。
毎年毎年、当たり前のように楽しむこの花見もあと何年楽しむことができるだろう」と思いながらもこの幸せなときが来年もそのまた来年もいつまでも続くと思っていました。

桜が枯れてしまいました

その桜が昨年とうとう枯れてしまいました。
倒れると危ないので伐採しました。
根元は長径が70、80㎝もある大木に育っていました。
あの小さかった桜の木が大きくなり、毎年花を咲かせ、楽しませてくれました。
家族は一人、二人と旅立ち巣立ち、桜の木もまた命を終えました。
本当に信じられない速さで時は過ぎ去っていきます。
今年も春が来ます。
でも、もう桜は咲きません。

桜の切り株と人生の扉

花見はできなくても桜の切り株のそばにテーブルと椅子を置きもう枝のない薄暮を見上げながらまたひとつ「人生の扉」を開くことができた幸せを思いぐびり。
これからあと何回「人生の扉」を開くことができるのでしょう。
その「扉」の向こうにどんな「人生」が待っているのでしょう。
年輪の横で「人生の扉」を聞きながら思いを馳せています。




今年のお酒は去年までとはちょっと違う味がする気がします。
飲み過ぎに注意です。









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