水増しされた南海トラフ地震の発生確率

 

「南海トラフ地震の真実」を読みました。

高知県から静岡県に及ぶ太平洋側は南海トラフ地震が周期的に発生していると言われ、今後30年以内の発生確率は70~80%と算出されています。
私が住む高知県では何かあると「今後30年の発生確率は・・」で始まる話をよく聞きます。

その発生確率が科学的知見よりも政治的、予算的な圧力で水増しされた数値だとこの本で舞台裏を暴いています。
驚きつつ、とても興味深く読みました。


政府の地震調査研究推進本部が作成した全国地震動予測地図2020年版

今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を日本地図に落とし込んでいます。
この地図を見ると南海トラフ地震では26%以上となっています。
実際には70~80%とされています。
この地図のもととなった発生確率の決め方は当然、科学的なデータの積み重ねと信じていました。

「南海トラフ地震の真実」 東京新聞 小沢慧一著


すぐに入手できない場合は、東京新聞のサイトで概略を知ることができます。
中日新聞・東京新聞の連載「南海トラフ地震80%の内幕」が元になっています。
無料で読むことができるのは東京新聞の次のサイトです。
南海トラフ 80%の内幕:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

南海トラフ地震の発生率80%は水増ししされたもの!?


今後30年以内の南海トラフ地震発生確率の80%。
「地震学者で、まともに信じている人が、一体どのくらいいるのでしょうか」。
東京新聞の記者・小沢慧一さんの著書「南海トラフ地震の真実」に出てくる地震学者のつぶやきです。
高知県に住む私たちは「30年以内に80%近い確率で大きな地震が来る!」と信じさせられてきました。
その80%の発生確率を信じている地震学者が少ないとはどういうことでしょうか。

2018年、政府の地震調査研究推進本部は今後30年以内の南海トラフ地震の発生確率をそれまでの70%程度から70~80%に引き上げました。
地震学者はそれまでに公表していた70%程度の発生確率は高すぎると考え、20%という数字を提示しました。
しかし、政策を担当するグループから発生確率がいきなり下がったのでは国民が混乱する、発生確率が高い方が防災の予算が付くと学者に圧力をかけました。
押し切られて学者たちは自分たちが信頼していない「水増し」した発生確率を出してしまい
ました。

菊池寛賞を受賞

小沢記者は2023年の菊池寛賞を受賞しました。

授賞理由は次の通りです。

「30年以内に70~80%」という南海トラフ地震の発生確率が、水増しされた数字であり、予算獲得などのために科学が歪められている実態を、非公開の議事録や古文書の調査など丹念な取材によって明らかにした

すごいことをサラッと書いています。

この受賞で世間で耳目を集め、小沢記者がテレビに登場することもありました。

地震保険料の算定には発生確率80%は使っていない

3月8日、参議院予算審議委員会で日本維新の会の猪瀬議員が、小沢さんの本をもとに質問をしました。

驚くべきは、地震保険料の算定には南海トラフ地震の発生確率80%を使っていない、ということです。
他の方法で算定した発生率で計算しています。

財務省が公表している地震保険料率です。

地域によって地震保険料率が変わります。
それでも地震本件料率が低い地域と高い地域でも4倍程度の差です。
確かに、南海トラフ地震の発生確率の80%を使えば、保険料率の差はもっと大きくなりそうです。
地震保険料率を定める財務省が南海トラフ地震の発生確率80%を信じていないとはどういうことなのでしょう。

驚かない周り


小沢記者が調べ上げた内容に私は驚きましたが、周りは驚かないようです。
いや、驚かないのではなく、「地震が起こっているわけでもないし、県民が被害を受けたわけではない、30年内の発生確率が高くなってせっかく多額の予算が付くのだから、いいじゃないか」と声を出さずやり過ごそうとしているように感じます。

本当に県民は被害を受けていないのでしょうか。
今後30年以内の発生確率が70~80%と言われ、不動産価格は低く評価されてはいないでしょうか。
企業誘致のハードルは高くなっていないでしょうか。
その結果、県民に雇用の場を提供し損ねてはいないでしょうか。
真っ赤な地図が頭に浮かび、県外に出た子供たちに「帰ってこい」と言うことを躊躇した皆さんも多いことでしょう。

「南海トラフ地震の発生確率は80%もある」と言えば、予算がとりやすくなる。
県民も無条件に協力する。
そんな思惑があるのかもしれません。

地元の高知新聞も驚きません

小沢記者が最初に新聞に連載したのは2019年の中日新聞です。
2022年11月に高知新聞は「江戸期から伝わる史料―室戸文書は問う 次の南海地震に向けて」の7回の連載を行いました。
内容は、ほぼ小沢さんの連載の転載でスタートしますが、中日新聞・東京新聞からの「転載」らしき表現はありません。

7回の連載の前半は、発生確率80%への疑問を、小沢記者の連載と同様に述べています。
しかし、後半では地元高知大の名誉教授やコアサンプルをもとに「南海トラフ地震は繰り返す」と確率の話から「だから備えよう」の話になっていきます。

私は地震の発生確率が水増しされていたものであれば、高知新聞がチームを組んでしっかり報じるべきテーマだと思います。
しかし、2022年当時の連載は一人の記者が担当していました。
この連載を読むと高知新聞の腰の引けようが透けて見えます。

当然のように上に紹介した今年3月の猪瀬議員の国会質問も報じられていません。

「高知新聞、お前もか」と感じます。

「今は、確率が何に役立つ情報なのか、出している当人も含めてまともに答えられていない状態です。おまけに地図で危険度を色分けしておきながら『全国で地震が起きる可能性があるので、どこの地域でも防災を心がけて欲しい』と、ジョークみたいな注釈を入れている」 地震学者自身の辛辣な批判です。
今後30年以内で震度6以上の地震の発生確率が3%以下の能登半島。
耐震補強など思いもよらず、安全をPRして多くの企業を誘致してきました。
元日に震度7の巨大地震で大きな被害を受けました。
科学に真摯に向き合う。当たり前のことを当たり前に行うことが大切だと思います。

科学を軽んじる国家。
日本がそんな国になってしまっていることが一番の驚きであり、衝撃でした。



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