ヤモリと夏の夜の夢
夏になると曇りガラスの向こうに体をSの字にしたヤモリが透けて見えるようになります。
私は爬虫類が苦手です。
でも、ヤモリは何とも愛嬌があり嫌いではありません。
ある日のこと。
ヤモリが台所の粘着剤に手足を取られ身動きが取れなくなっていました。
そうっとつまむとヤモリの体はとても柔らかく、強くつかむと潰れそうです。
傷つけないように両脇をつまみ、粘着剤から引き離そうとしました。
すると「キュッ キュッ」と鳴きました。
へぇ、ヤモリって鳴くんだ。
そう言えば、東南アジアを舞台にした映画「戦場のクリスマス」の冒頭でトッケイヤモリが鳴くシーンがあったことを思い出しました。
強く引っ張ると手足を傷めそうです。
そうっと、そうっと引きはがし、手足の先に付いた粘着剤を綿棒やピンセットでできるだけ取り除きました。
小さい爪がありました。
完全には取り切れませんでしたが、身を固くしているヤモリをこれ以上つまみ続けるのはよくなさそうです。
ヤモリをいつも見かける窓の付近にそっと降ろしました。
感謝の気持ちか指先を噛んできました。
噛まれても痛くはありません。
指先の指紋にヤモリの歯の感触が感じられたくらいです。
降ろしてもすぐに動きません。
胸郭が大きく動き、掴まれていた恐怖から心を落ち着かせているように見えました。
次に見るともう姿が見えなくなっていました。
夏の夜によく見かける我が家の同居人のヤモリ。
愛嬌のある姿に今までも一方的に親近感を持っていました。
鳴き声を聞いて、一層、身近に感じます。
近くを通った時に「キュッ キュッ」と鳴いてくれたら「たまぁるか!あの時のヤモリ君か!」となるのですが、今夜もヤモリは素知らぬ顔。
残念、夏の夜の夢でした。
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