やっぱりお袋には敵わない

 畑にモンシロチョウが飛ぶと思い出す風景があります。
お袋がキャベツや白菜の畝の間に椅子を据えアオムシを取っている風景です。
長年保母をしていたお袋は「子供たちにアオムシさん、チョウチョさんと言いよったに、今ではにっくきアオムシめになった」と言いながらピンセットでつまんだアオムシを足元に落としえいっ!と踏みつぶしていました。



何事にもおおらかなお袋

何事にもおおらかなお袋でした。
真似しようにもかなわない逸話をたくさん持っていました。
そのお袋は動物は人の言葉をわかっちゅうと信じていました。

夏の日の出来事

夏のある日の昼下がりのことです。
保育園ではお昼寝の時間です。
子供たちを寝かし、その横でお袋もついウトウトとしていました。
するとそよ風とともにどこからか「ごそごそ、ガサガサ」と音が聞こえてきます。
お袋は起き上がらず「誰ぞね!静かにしなさい!」と言うと静かになります。
また少しすると「ガサガサ、ごそごそ」またお袋は「静かに!」と言うとまたピタッと音がしなくなります。
3度目か4度目のガサガサにお袋が「もう、ええ加減にしなさい」と上半身を起こし周りを見渡しても子供たちは皆すやすやと眠っています。
ふと水槽を見るとガラスに前足をついて立ち上がったカメが首を伸ばしてお袋を見ていました。
お袋と目が合ったカメはすごすごと前足を下ろし水槽の底に横になったそうです。

お袋はドリトル先生

この経験からお袋は動物は人の言葉が分かっちゅうと信じるようになりました。
「どう考えてもカメは私の言葉をわかっちゅうろう。動物は人の言葉が分かるぞね。」
「まっこと。お袋はドリトル先生みたいやねぇ。でも、よそではこの話をしなよ。」
そんなことあるはずないと笑いながら、小さい頃ドリトル先生の冒険譚にワクワクした私は、カメと会話したと楽しそうに話すお袋が羨ましかったのかもしれません。
最近、大学の先生がシジュウカラが仲間同士で会話することを明らかにしました。
この話を聞いたらお袋は「ほら見てごらん。動物はわかっちゅうぞね。仲間同士だけじゃのうて人の言葉もわかっちゅう。大学の先生ももっと勉強せんといかん」と言ったに違いありません。

やっぱりお袋には敵わない

フキノトウが膨らみ、菜の花が咲きました。
ブロッコリーももこもことしてきました。
ブロッコリーを見るとあちこちでアオムシに食べられています。
葉っぱは穴だらけです。
お袋のことを思い出し、試しに「止めなさい」「まだ食べるかね」と言ってみました。
アオムシは私の言葉を聞く耳を持ちません。
ピンセットで身をよじるアオムシをつまみ地面に落としました。
空を見上げて「やっぱりお袋には敵わんわ」とつぶやき、エイッと踏みつぶしました。











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